研究内容の紹介

当研究室では、宇宙の起源と構造に関する多様なテーマに取り組んでいます。

初期宇宙

1. インフレーション

インフレーションは現代宇宙論の基盤であり、宇宙の構造の起源を説明する上で中心的な役割を果たします。この急激な膨張の時期は、ホットビッグバンに先立って発生し、インフラトン場および時空の量子的ゆらぎを宇宙スケールへと引き伸ばすことで、原始的な曲率ゆらぎを生み出します。これらのゆらぎは、最終的に宇宙マイクロ波背景放射(CMB)や宇宙の大規模構造(LSS)に見られるゆらぎへと成長していきます。私たちの研究では、これらのゆらぎの小スケールにおける性質と進化に注目しており、そこにはインフレーションの物理に関する新たな側面が現れる可能性があります。

2. 再加熱期と初期宇宙の物理

初期宇宙の全体像を完成させるためには、インフレーションが終了した後、宇宙が滑らかに高温・高密度な放射優勢の状態へと移行する必要があります。この移行は「再加熱期」と呼ばれ、インフレーションによって蓄えられたエネルギーが標準模型の粒子へと変換される過程です。多くの理論モデルでは、インフラトン場がポテンシャルの谷で振動し、その崩壊によって相対論的な粒子が生成され、放射優勢の宇宙が始まると考えられています。この過程は物質の起源や高エネルギー物理の拡張を理解する上で重要です。インフレーションやビッグバン元素合成に比べて、再加熱期は直接的な観測による制約がほとんどありませんが、近年では高周波重力波を用いた再加熱期の探査が注目されており、従来の観測手法では捉えにくい初期宇宙の物理に新たな展望を開く可能性があります。

3. 原始ブラックホール

初期宇宙は、原始ブラックホール(PBH)を通じて研究されています。PBHは、放射優勢時代に地平線へ再突入する大きな密度ゆらぎから形成される可能性があります。PBHは小さなスケールのゆらぎに敏感であるため、宇宙インフレーションの最終段階を探るためのユニークな手がかりを提供します。さまざまなPBH形成シナリオが検討されており、PBHの存在量に対する観測的制限を用いて、小スケールの曲率パワースペクトルおよびインフレーション終盤の物理が制限されています。

重力波天文

最近の重力波直接観測により、ついに重力波天文がスタートしました。重力波という全く新しい観測方法で宇宙を探求することができるようになったのです。これから重力波観測は大きく発展し、新しい重力波源がたくさん見つかると期待されています。これによって、宇宙論はさらに進展するでしょう。また重力波を使うことで、ブラックホールなど強い重力場での重力法則の検証ができ、そこから新しい物理学が拓かれるかもしれません。重力波を用いた宇宙論や基礎物理に関する研究も当研究室では行っています。

重力レンズ

遠方の光源から地球まで光が伝搬するとき、その進路上に銀河やブラックホールなどの重い天体があると、その重力によって光の進行方向が曲がり光源の像が歪んで見えることがあります。この現象は「重力レンズ」と呼ばれ、像の歪み具合から物質の分布を推定できるため、ダークマターの探査などにおいて有力な手段になります。特に近年、重力波の重力レンズ現象が注目を集めています。重力波は光に比べて波長が非常に長く、干渉・回折などの波動光学的効果が顕著に現れます。これらの効果は周波数依存性を持ち、その振る舞いにはレンズ天体の質量分布の情報が含まれています。したがって、重力波の重力レンズを観測・解析することで、宇宙の大規模構造を様々なスケールで探査できると期待されています。